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2014年10月16日木曜日

パスワードの定期的変更はパスワードリスト攻撃対策として有効か

パスワードリスト攻撃の対策として、パスワードの定期的変更に意味があるのかという議論があります。私は(利用者側施策としては)実質意味がないと思っていますが、まったく意味がないというわけでもありません。
このエントリでは、パスワードの定期的変更がパスワードリスト攻撃に対してどの程度有効かを検討してみます。

前提条件

パスワードリスト攻撃を以下のように定義します。
別のサイトから漏洩したアカウント情報(ログインIDとパスワードの組み合わせ)の一覧表(パスワードリスト)があり、そのログインIDとパスワードの組をそのまま、攻撃対象に対してログイン試行する攻撃
パスワードの定期的変更の一例として以下の条件を前提とします
  • 利用者は、すべてのサイトのパスワードを90日毎に変更する
  • 利用者はすべてのサイトで同じログインIDを用いている
  • 変更後のパスワードはすべてのサイトで同じとする
    ※ サイト毎にパスワードを別にすれば、それ以降はパスワードをまったく変更しなくてもパスワードリスト攻撃はできなくなるためこの条件を設定

攻撃条件(1)

攻撃者はサイトAから窃取したアカウント情報を直ちにサイトBに対して試行する場合

この場合、サィトAに登録されたIDとパスワードはサイトBでも有効なので、パスワードリスト攻撃が成功する。すなわち、パスワードの定期的変更に効果はない。

攻撃条件(2)

攻撃者はサイトAから窃取したアカウント情報を用いてサイトBを攻撃するが、アカウント情報は古いものであるとする。

※ アカウント情報が古いシナリオとしては、サイトAのパスワードがハッシュ値で保存してあったために解読に時間がかかった、あるいは攻撃者がパスワードリストを購入したが、最新ではなく古いものであった、などの可能性があります。

この場合、パスワードが漏洩してから攻撃があるまでの間に、パスワードが変更されていれば、パスワードリスト攻撃は成立しません。パスワードが変更される前であれば、攻撃は成立します。

評価

パスワードの定期的変更を実施していると、仮に全サイトで同じパスワードを設定していても、パスワードリストが古いものである場合、攻撃のタイミングによってはパスワードリスト攻撃を防ぐことが出来ることができます。パスワードリストの売買の報道例についてはこちらを参照ください。
それにも関わらず私が「実質意味がない」と思う理由は、どうせパスワードを変更するのであれば、そのタイミングで、サイト毎に異なるパスワードを設定すればいいじゃないかと思うからです。いったんサイト毎に異なるパスワードを設定しておけば、その後はパスワードを変更しなくても、パスワードリスト攻撃に関しては完全に防御することができます。

一方、パスワードの定期的変更では、「運が良ければ防げるが、防げない可能性も高い」という性質のものなので、利用者側の立場としてのパスワードリスト攻撃対策は以下の一点でよいと考えます。
  • サイト毎に異なるパスワードを設定する
他の攻撃に関しては、別の対策も併用する必要があります。
また、パスワードの定期的変更の、リスト型攻撃以外に対する効用については、以下のエントリを参照ください。

追記(2014/10/16 15:30)

@machuさんからコメントをいただきました。
『管理者側は違うパスワードは強制できないけど、定期変更は強制できる』という指摘は鋭い着眼ですね。そういえば、総務省の公表した『リスト型アカウントハッキングによる不正ログインへの対応方策について』では、「利用者にパスワードの定期的変更を求める」という表現ではなく、「パスワードの有効期間設定」となっていました。総務省の資料は、「サイト管理者などインターネットサービス提供事業者向け対策集」ということなので、このような表現になっているのだと思います。これに対する評価は以下の通りです。

  • パスワードの定期的変更は強制できる
  • 結果としてパスワードリスト攻撃への効果は限定的(ないわけではない)

ですが、パスワードの管理は本来は利用者側の責任であるわけで、そこにサイト運営者が介入する方向性としては、できるだけ利用者の負担増が少なく、かつ効果の高いものであるべきだと考えます。この点、「パスワードの有効期間設定」は、利用者の負担が大きく、かつ効果が限定的であるという点で、よくない施策であると考えます。













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