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2014年3月28日金曜日

とあるECサイトのアクセス制御不備

商売柄、脆弱性や侵入事件のニュースがあると背景を調べることが多いのですが、このエントリは、侵入されたサイトを見に行って発見した脆弱性のお話です。
とあるECサイトが外部から侵入されたというニュースを見て、再開後のECサイトを見に行きました。普通に会員登録してログインしてみると、セッションIDの他に気になるクッキーが発行されていました(クッキーの名前と値は変えてあります)。
Set-Cookie: login=123456; path=/
Set-Cookie: loginflg=1; path=/
直感的に、login=123456は内部的なユーザID(ユーザ番号)、loginflg=1はログイン済みであることを示すフラグのように思えました。しかし、まさかね。今時それはありえないアルよ。
そこで検証のために、先ほどとは別のユーザを登録してログインしてみました。すると、以下のクッキーが発行されるではありませんか。
Set-Cookie: login=123457; path=/
Set-Cookie: loginflg=1; path=/
なんということでしょう。loginというクッキーが、1つインクリメントされているではありませんか。この段階で、loginの示す値が内部的なユーザID(ユーザ番号)であることは確実のように思えます。
外部に晒す必要のない会員番号を公開している時点で、よろしくない状況ではあるのですが、まだこの段階では致命的な脆弱性であるとまでは言えません。たまに、意味ありげなクッキーを吐いていても実際には使っていなかったり、表示のためだけに使っている場合もあるからです。

そこで、ブラウザのすべてのクッキーを削除した後上記のクッキー(123456等)のみを再セットして、会員情報を表示するページを閲覧してみました。すると、私の個人情報が表示されるではありませんか。次に、loginを123457に変更して個人情報ページを閲覧すると、2番目に登録した方の個人情報が閲覧できました。うーん、これで確定のようですね。クッキーloginの数字を変えるだけで任意のユーザになりすましができてしまいます。しかも、この数字は連番ですので、推測が容易です。

私は拙著「体系的に学ぶ 安全なWebアプリケーションの作り方 脆弱性が生まれる原理と対策の実践 」にて、自動ログインの危険な実装例として以下の説明を書きました。

体系的に学ぶ 安全なWebアプリケーションの作り方 脆弱性が生まれる原理と対策の実践 P330より引用

引用した箇所は自動ログインとしての説明であり、上記はログイン結果の保持という違いはありますが、「かなり極端な例」として紹介した実装を21世紀の今日、ECサイトのログインで見かけたというのはいささか驚きでした。

では、どうすればよいかですが、読者の皆様には今さら説明する必要もないでしょうが、セッション変数にログインユーザを保持すれば問題ありません。クッキーとは異なり、セッション変数は第三者からも利用者からも変更はできないからです。

ということで、ここから得られる教訓は下記の通りです。
  • 認証後にログインユーザ名を保持するにはクッキー等ではなくセッション変数を使おう
  • 侵入被害にあった後サイトを再開する前に、セキュリティの専門家にチェックしてもらおう
なお、この脆弱性はIPAに届け出を行い、既に修正されていることを確認済みです(取扱い番号 IPA#19289197)。届け出の際の脆弱性は「セッション管理の不備」としていましたが、上記の実装だと「アクセス制御の不備」の方が妥当な気がします。容易に推定できる番号だけで認証状態になってしまうからです。

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