2019年3月4日月曜日

EC2上でDNS RebindingによるSSRF攻撃可能性を検証した

AWS EC2環境でのDNS Rebindingについて検証したので紹介します。
まずは、「前回までのおさらい」です。先日以下の記事でSSRF攻撃およびSSRF脆弱性について紹介しました。
この記事の中で、以下のように紹介しました。
ホスト名からIPアドレスを求める際にも以下の問題が発生します。
  • DNSサーバーが複数のIPアドレスを返す場合の処理の漏れ
  • IPアドレスの表記の多様性(参考記事)
  • IPアドレスチェックとHTTPリクエストのタイミングの差を悪用した攻撃(TOCTOU脆弱性)
  • リクエスト先のWebサーバーが、攻撃対象サーバーにリダイレクトする
上記のTOCTOU(Time of check to time of use)問題は、DNSの名前解決の文脈ではDNS Rebindingとも呼ばれます。
DNS Rebinding攻撃についてはインフラ側で対策が取られている場合もあります。そこで、EC2上のウェブサイトにて、DNS RebindingによるSSRF攻撃が可能か検証してみました。
攻撃対象のスクリプトを以下に示します。これは先日の記事のスクリプトを改修したもので、クエリ文字列urlで指定したURLのコンテンツを読み出し、表示するものです。IPアドレスのチェックを追加し、表示系を簡略化しています。
<?php
  header('Content-Type: text/plain');
  $url = $_GET['url'];
  $urlinfo = parse_url($url);
  $host = $urlinfo['host'];     // URLからホスト名を取り出し
  $ip = gethostbyname($host);   // 接続先IPアドレスを取得
  echo "Target IP : $ip\n";     // 接続先のIPアドレスを表示
  if ($ip == "169.254.169.254") {
    die("Invalid host $host");  // IPアドレスが169.254.169.254ならエラー
  }
  $ch = curl_init();
  curl_setopt($ch, CURLOPT_URL, $_GET['url']);
  curl_setopt($ch, CURLOPT_RETURNTRANSFER, true);
  $body = curl_exec($ch);
  echo $body;
  $prime_ip = curl_getinfo($ch, CURLINFO_PRIMARY_IP);
  echo "\nActual IP : $prime_ip\n";  // 実際のIPアドレスを表示 
このスクリプトは、DNS Rebinding以外にもいろいろ駄目ですが、とりあえず接続先のIPアドレスが169.254.169.254でないことは確認しています。これを以下のIPアドレスで実行すると

http://ホスト名/ssrf.php?url=http://169.254.169.254/latest/meta-data/iam/security-credentials/test-role

以下のようにエラーになります。
Target IP : 169.254.169.254
Invalid host 169.254.169.254

DNS Rebinding

ようやくDNS Rebindingの説明です。攻撃対象が下図のWeb Applicationだとします。図の右側のDNS Contents Server(DNS権威サーバー)は、接続先のドメイン名を管理しているDNSサーバーで、実は攻撃者が管理している想定です(example.jpは例示用のドメイン名です)。


この状態で、先のサンプルスクリプトでurl=http://evil.example.jp/... を指定した場合、通常ケースでは以下のように名前解決されます。

上図のように、gethostbynameとcurl_execの双方で名前解決が発生しますが、DNSキャッシュサーバーのキャッシュが残存していれば、2回目の名前解決の際には、DNSコンテンツサーバーには問い合わせずにDNSキャッシュサーバーがキャッシュの値を返します。
そこで、DNSコンテンツサーバー(権威サーバー)側がTTL=0としてAレコードを返し、Aレコードの要求毎に異なるIPアドレスを返す攻撃がDNS Rebinding攻撃です。その様子を下図に示します。

DNSコンテンツサーバーがTTL=0でAレコードを返すので、DNSキャッシュサーバーは問い合わせがある度にDNSコンテンツサーバーにAレコードを問い合わせます。そして、最初の問い合わせでは無害なIPアドレス(203.0.113.5)を返し、二度目の問い合わせでは169.254.169.254(EC2インスタンスの設定を返すIPアドレス)を返しています。このようにして、IPアドレスのチェックをすり抜ける攻撃手法がDNS Rebinding攻撃です。
上図を見る限りいかにも成功しそうですが、実際にはキャッシュサーバーの仕様などに依存します。DNS Rebinding対策その他を目的として、キャッシュサーバー側でTTLを超えてキャッシュを保持するDNS Pinningを実施している可能性があるからです。

試してみる

簡易的なDNSコンテンツサーバーを書いて、上記攻撃を試してみました。このDNSサーバーは、上図の通り、1回目の応答ではAレコードとして 203.0.113.5 を返し、2回目以降は 169.254.169.254 を返します。その結果、以下のようにSSRF攻撃に成功しました。
Target IP : 203.0.113.5
{
  "Code" : "Success",
  "LastUpdated" : "2019-03-03T08:00:51Z",
  "Type" : "AWS-HMAC",
  "AccessKeyId" : "ASIAxxxxxxxxxxxxxxxx",
  "SecretAccessKey" : "zCc1sxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx",
  "Token" : "FQoGZXIvYXxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx...
  "Expiration" : "2019-03-03T14:30:31Z"
}
Actual IP : 169.254.169.254 
gethostbynameの時点では、アクセス対象のIPアドレスは 203.0.113.5 (Taget IPとして表示)でしたので、事前のIPアドレスチェックはかいくぐっていることがわかります。
Actual IPは、curlが実際にアクセスしたIPアドレスであり、169.254.169.254となっています。

対策

DNS Rebinding攻撃を前提としない条件でも、接続先のURLについて以下のチェックが必要です。
  • プロトコル(スキーム)が http か https のいずれかである
  • 接続先ホストに紐づくIPアドレスが禁止されたものでない
そして、IPアドレスのチェックがそもそも容易でないことはSSRF徹底入門にも書きました。加えて、DNS Rebinding攻撃の対策もやっかいです。gethostbyname関数の呼び出しに代えてdns_get_record関数等によりDNSクエリを実行して、TTLを確認することは可能ですが、正常系でもTTLが 0 になることはあり得るので、リトライなどの複雑な処理が必要になります。処理が複雑になると、それ自体が脆弱性の原因になるので、ちょっとやりたくない実装です。

先のスクリプトでは、PHPのcurl実装で使用できるCURLINFO_PRIMARY_IPを利用して、「実際に接続したホストのIPアドレス」を表示しています。攻撃によるリスクが情報漏えいのみである場合は、このIPアドレスを検証して、許可されていない場合はエラーにすることで漏洩を回避できます。ただし、これで完全な対策になるかは、徳丸自身は検証していません。

いっそのこと…ということで、外部コンテンツの取得をPROXY経由にするという対策があります。PROXYなら、接続先のホワイトリストやブラックリストによる制限は容易だからです。これだと、DNS Rebinding以外の対策も同時に行えます。

PROXYサーバーを用意するほどでもない…というケースでは、Amazonが推奨しているiptablesによる対策が考えられます。先の記事でも引用しましたが、再掲します。
sudo iptables --insert FORWARD 1 --in-interface docker+ --destination 169.254.169.254/32 --jump DROP
Amazon ECS コンテナインスタンスの IAM ロール - Amazon Elastic Container Service より引用
詳しくは、上記ドキュメントを参照ください。

補足

DNS Rebindingの一般的な対策(アクセスされる側)は以下のいずれかを実装することです(両方でもよい)。
  • Hostヘッダの検証(参考
  • 適切な認証とアクセス制御
AWSの 169.254.169.254 は両者のどちらもやっていないことはイケテナイと個人的には思います。仮に Host ヘッダがIPアドレス以外のケースをエラーにしておけば、DNS Rebinding攻撃でここから情報を盗むことはできません。今更変更は難しいかもしれませんが、ここはチェックしていただきたかったですね。

まとめ

DNS RebindingによるSSRF対策回避について説明しました。要約すると、「やってみたらできました」ということです。SSRF脆弱性の対策は難しいので、任意URLを受け取る仕様そのものを見直すか、本稿で紹介したPROXYあるいはiptablesによる対策を推奨します。

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