後述するように影響を受けるアプリケーションは少ないと思われますが、念のためアプリケーションの確認を推奨します。また、次バージョンPHP5.3.7のRC1で修正されていることを確認しましたので、PHP5.3.7正式版が公開され次第、できるだけ早期に導入することを推奨します。
※このエントリは、はてなダイアリーの過去のエントリからの転載です。
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概要
PHPにはファイルアップロードの機能が提供されています。アップロード時のリクエストに付与される元ファイル名は、PHPスクリプトでは、$_FILES[]['name']で受け取れますが、この際にはファイルのディレクトリ名やドライブレター(C:のような)は除去され、ファイル名と拡張子だけがアプリケーションに渡される仕様です。
確認
「体系的に学ぶ 安全なWebアプリケーションの作り方(以下、徳丸本)」の「4.12ファイルアップロード」にまつわる問題に出てくるサンプルスクリプト4c-001.phpと4c-002.phpを用いて、この問題を検証してみましょう。以下は4c-002.phpのソースです。このスクリプトには脆弱性があります。
<?php $tmpfile = $_FILES["imgfile"]["tmp_name"]; $tofile = $_FILES["imgfile"]["name"]; if (! is_uploaded_file($tmpfile)) { die('ファイルがアップロードされていません'); // 画像を img ディレクトリに移動 } else if (! move_uploaded_file($tmpfile, 'img/' . $tofile)) { die('ファイルをアップロードできません'); } $imgurl = 'img/' . urlencode($tofile); ?> <body> <a href="<?php echo htmlspecialchars($imgurl); ?>"><?php echo htmlspecialchars($tofile, ENT_NOQUOTES, 'UTF-8'); ?></a> をアップロードしました<BR> <img src="<?php echo htmlspecialchars($imgurl); ?>"> </body>
このスクリプトを用いてupload.pngというファイルをアップロードします。元ファイルがC:\HOME\PHP\upload.pngというファイル名だった場合、以下のようにファイルアップロードのリクエストには、filename=C:\HOME\PHP\upload.pngという形で添付されています。しかし、PHPスクリプトには、upload.pngというファイル名のみが渡されます。
次に、Fiddlerなどを使って、以下のようにファイル名をfilename=/upload.pngと改変してみます。
ファイル名が/home/upload.pngや../upload.pngの場合は、ディレクトリ部分は削除されます。
この脆弱性の影響
$_FILES[]['name']が絶対パス名を返した場合、このファイル名の使い方次第では問題になる可能性があります。
- $_FILES[]['name']をそのまま使ってmove_uploaded_fileによりファイルを移動している
- PHPスクリプトが、Webサーバーのルートディレクトリに対して書き込み権限をもつユーザで実行している
前者は、具体的には以下のようなスクリプトです。
move_uploaded_file($_FILES["imgfile"]["tmp_name"], $_FILES["imgfile"]["name"]);
このスクリプトは正常系の動作では、PHPのスクリプトがおかれているディレクトリにファイルを書き込むわけで、乱暴としか言いようがありません。PHPファイルを書き換えて任意のスクリプトが実行できるわけで、CVE-2011-2202脆弱性がなくても致命的な脆弱性であると考えられます。
PHPスクリプトがWebサーバーのルートディレクトリに書き込み権限を持つ場合の典型例は、Apacheが管理者権限で動いている場合です。脆弱性診断をしているとたまにそのようなWebサイトを見かけますが、非常に危険です。最近では、Apacheをインストールするとデフォルトでは管理者権限のないユーザ(nobody、apache、www-dataなど)で動作するようになるので、わざわざ危険な設定に変更してはいけません(追記:Windows版のPHPはデフォルトではSYSTEMユーザという強い権限で動作します)。
対策
これらは、CVE-2011-2202の影響を受けないための最低条件です。例えば、先に紹介した4c-002.phpはCVE-2011-2202の影響を受けませんが、他の脆弱性はあります(脆弱な例なので)。詳細は、徳丸本4.12節を参照してください。
まとめ
CVE-2011-2202の概要、影響、対策について報告しました。
大半のアプリケーションは、CVE-2011-2202の影響によりセキュリティリスクは増加しないと考えられますが、この機会にファイルアップロード部分に脆弱性がないかチェックするとよいでしょう。また、早期にPHP5.3.7への移行を実施してください。
この脆弱性のリスクをNVD(National Vulnerability Database)では、6.4と判定していますが、redhatのCVE DATABASEでは2.6と低く判定しています。私は、redhatの判定を支持します。この例のように、脆弱性のリスクは判定者によって異なる場合があるため、単独の情報を鵜呑みにしないことが大切です。脆弱性の内容を理解して自社アプリケーションの影響を判断するのが正しい対処ではありますが、よく分からない場合はリスクの高い方に従っておくべきですし、その場合はソフトウェア提供者などが推奨する対策(パッチ適用、バージョンアップ、回避策など)を実施するべきでしょう。
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