6月13日にIPAから公表された「IPA テクニカルウォッチ『Androidアプリの脆弱性』に関するレポート」は、この『安全なウェブサイトの作り方のAndroidアプリ版』に相当する位置づけのドキュメントです。なぜそう思うかというと、以下の性格が『安全なウェブサイトの作り方』と共通するからです。
- Androidアプリの基本的な問題に絞っている
- 届出の多い脆弱性にフォーカスしている
Androidアプリの脆弱性とは何か
同レポートでは、Androidアプリの脆弱性を以下のように定義しています(同書P3)。■ 「脆弱性」この不正なことを誰が(何が)するかというと、不正なアプリであるわけで、これも以下のように定義されています。
Android OSに備わっている仕組みを”Androidアプリが適切に使用していない”場合、他のアプリが所有しているデータに不正アクセスしたり、他のアプリの権限を不正に使用したりするセキュリティ上の問題が発生する。本書では、このようなセキュリティ上の問題をAndroidアプリにおける脆弱性と位置づけている。
■ 「不正なアプリ」ということで、要は、「アプリケーションが、Androidに備わっている仕組みを適切に使用していないことが原因で、不正なアプリ(マルウェア)が、アプリのデータに不正にアクセスできる、あるいはアプリの権限を不正に使用できる」状態をAndroidアプリの脆弱性として位置づけています。
本書では、他のAndroidアプリの脆弱性を悪用し、他アプリのデータにアクセスしたり、他アプリの権限を不正に使用したりするAndroidアプリを指す。
では、Androidアプリには他のタイプの脆弱性はないかというと、必ずしもそうではないと思います。例えば、AndroidアプリがSQLiteを使っていて、そこにSQLインジェクション脆弱性がある場合、アプリの脆弱性ですが、「Androidの仕組みを適切に使用していない」ことが原因とは言えません。
このため、同書はAndroidアプリ「固有の」脆弱性にフォーカスして解説しているととらえればよいと思います。その結果、同書は表紙を含めても24ページと大変コンパクトにまとまっています。この薄さは読者にはありがたいですね。
■『Androidの仕組み』とは
Androidに備わっている仕組みを適切に使用しないことで脆弱性が生まれるわけですから、脆弱なAndroidアプリを作ってしまう開発者は、Androidの仕組みを正しく理解していないと推測されます。このため、同書は、2章をAndroidの仕組みの解説にあてています。その中から、「図2-1 Androidの仕組みの動作イメージ」という図を引用します。「おいおい、これはAndroidの基本そのものではないか。そんなものは知っている」と思われた読者が多いかもしれませんが、現実に、その基本がちゃんと分かっていないために多くの脆弱性が生まれているわけで、分かっているつもりの方でも、もう一度同書でおさらいをしておくと良いのではないでしょうか。
■届出の多い脆弱性
同書の3章は、「IPAに報告されたAndroidアプリの脆弱性」ということで、IPAに届出のあったAndroidアプリの脆弱性42件のうち、31件が「アクセス制限の不備」と分析し、そのうち21件がコンポーネントのアクセス制限の不備、10件がファイルのアクセス制限の不備となっています。ということから、同書は、以下のように分析しています。これらの設定は、Androidにおいては基本的な設定である。しかし、多くの届出があったという事実から、このAndroid特有の設定内容が開発者に周知できておらず、結果的に、アクセス制限の不備の脆弱性を作り込んでしまっているのではないかとIPAでは推測する。
■脆弱性例の紹介
同書の4章はIPAに届出のあった脆弱性の中から、典型的なものを5種類紹介しています。このような脆弱情報の現物(アプリ名などは伏せてありますが)は中々目にする機会がないので、とても貴重で興味深い内容です。以下に目次を紹介します。4.1. ファイルのアクセス制限不備の脆弱性4.1と4.2の両方に「(2) ファイルが不正なアプリからアクセス可能」がありますが、4.1はファイルのアクセス許可の問題に起因するもの、4.2はコンテントプロバイダの設定不備に起因する問題です。特に4.2節は、Androidの特徴がよく出ていて興味深い内容だと思います。
(1) SD カードに機微な情報を保存
(2) ファイルが不正なアプリからアクセス可能
4.2. コンポーネントのアクセス制限不備の脆弱性
(1) 不正なアプリに機能を悪用される
(2) ファイルが不正なアプリからアクセス可能
4.3. ログ出力に関する情報漏えい
(1) 機微な情報をログに出力
■まとめ
「IPA テクニカルウォッチ『Androidアプリの脆弱性』に関するレポート」について紹介しました。既にAndroidアプリの脆弱性については、「Android Security 安全なアプリケーションを作成するために」やJSSECの『Android アプリのセキュア設計・セキュアコーディングガイド』があり、いずれも素晴らしい内容だと思いますが、どちらも「分厚い」もので、Androidアプリのセキュリティ入門としては、少しとっつきにくいという人もおられたと思います。一方、IPAの「『Androidアプリの脆弱性』に関するレポート」の方は、24ページという薄さと、基本にフォーカスして説明してあるという点で、全てのAndroidアプリ開発者およびAndroidアプリを発注する立場の方に読んでいただきたい内容です。
なお、徳丸はIPA非常勤職員として同書のレビューに参加いたしました。しかし、このエントリは個人の見解として書いているものであり、IPAとしての見解ではありません。
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